第35回受賞:松元雅和氏、白井聡氏

白井聡著
『永続敗戦論―戦後日本の核心』

松元雅和著
『平和主義とは何か―政治哲学で考える戦争と平和』

白井聡 (しらいさとし) 氏

白井聡 (しらいあきら) 1977年東京都生まれ。
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程終了。 博士(社会学)。
現在、文化学園大学助教。

著書
・『未完のレーニン―「力の思想を読む』
(講談社、2007)
・『物質の蜂起をめざして―レーニン <力の> 思想』
(作品社、2010)

松元雅和(まつもとまさかず)氏

松元雅和(まつもとまさかず) 1978年東京都生まれ。
慶応義塾大学法学部卒業。英国ヨーク大学大学院政治学研究科政治哲学専攻修士課程修了。 慶応義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。
現在、関西大学政策創造学部准教授。

受賞の挨拶

「戦争と平和」を冷静な議論の土俵に!――
松元雅和

このたびは「石橋湛山賞」という名誉ある賞を授かりまして、大変光栄に思っております。研究者としても教育者としてもまだまだ未熟な私が、このような賞にあずかれることは、未だに信じられない思いです。選考委員の皆様、財団の皆様方にあらためて感謝の言葉を申しあげたいと思います。

石橋湛山という方については、私は政治学の畑で進んできましたので、第一の印象としては、戦後は首相も務めたリベラルな政治家という人物像でありました。このたびあらためてその著作や評伝を目にしますと、戦前、特に大正から昭和初期にかけて、経済ジャーナリストとして、戦争や平和の問題に大変積極的に発言されていた。その発言内容に触れ、たいへん勉強させていただきました。

私が今回の著作を執筆した動機には、戦争や平和という難しい問題ではあっても、感情のぶつけ合いではなく、冷静な議論の土俵に載せたいという想いがありました。とりわけ一国の対外政策は、ナショナリズムとか愛国主義の熱情にさらされやすいのですが、私なりに政治哲学というフィールドから、過去の哲学者とか知識人の知恵を借りながら、まずは理性的な議論の土俵作りをしたいと。

そういう観点でいうと(これは事後的な反省になるのですが)、私が初めに学ぶべきは石橋湛山その人であったのではないかと思います。彼こそ、戦前から戦後にかけて一貫して戦争と平和という問題について、実利性・道義性という観点から、常に身をもって議論され続けてきたからです。私自身のフィールドは英語圏になっていて、日本の思想に目が十分届かなかったと思います。あらためて戦前・戦後の日本の平和思想についても、一から学びなおしたいと思っております。

そうした中でこの度、石橋湛山という偉大な執筆家であり政治家である方の名前を冠する賞にあずかれたことは、この上ないはげみになりました。今回の受賞を期にいっそう研究・教育活動に励んでまいりたいと気持ちを新たにしております。

最後になりますが、本日も同席頂いている慶應義塾大学の萩原先生、執筆の機会をいただいた中央公論新社の田中様、夫婦として、また研究者仲間として私を支えてくれる妻・裵智恵さんに改めて感謝の気持ちを申し上げたいと思います。

既に「内戦」が始まっている――問われる一人一人の立場
白井聡

このたびは伝統ある「石橋湛山賞」をありがとうございました。

この本を書くまで私は、主にレーニンを中心にマルクス主義の政治思想を研究していました。それが一段落して次の自分のテーマを模索をしている時に、2011年3・11に遭遇しました。つくづく思うのですが、今こうして、この賞の授賞式に皆が集まれるのも、運がよかったのだ考えざるをえないのです。ほんの少し運が悪ければ、放射能が東京にまで流れて大災害になることがあり、事故の収束にも手が着かないという状況だったかもしれない。東日本の壊滅はほとんど日本全部がだめになるということだと思います。

そのような衝撃の中から『永続敗戦論』が書かれました。本が出たのが2013年3月、それから1年6カ月が流れた訳ですが、政治・社会情勢は皆さんご覧になっているとおりです。なぜこういうことになっているのか。くちはばったい言い方ですが、この本で根本的な説明をしたという自負があります。論理必然的にこうなると。

私の本も「平和をめざす」ことが大きなモチベーションになっていますが、今現状はどうなっているかというと、先ほど「明日にも戦争が始まるかもしれないという状況すらある」との話がありました。私はさらに進んで「もう既に内戦が始まっている」と認識をしています。例えば「在日特権を許さない会」と称する団体が、本当に吐き気の催すような活動をしている。また先般、従軍慰安婦問題をめぐる記事で朝日新聞が取り消しをしましたが、その記事を最初に書いた元記者が、非難を受けて、在職していた大学教員を退職された。在特会的な主張・クレームをすることによって、教育機関やメディアを黙らせ、あらゆる言論を封殺することができる。こういう雰囲気が蔓延している。その背景に安倍内閣の保守・右翼色があると思います。私が内戦と言うのは、今まさにこのような状況にあることです。その内戦状態で必然的に一人一人がどちらの立場に立つのかが突きつけられている訳です。

私自身の立場は明らかなのですが、この本の中に、何かしらの説得力があるのであれば、読者に対して「連帯の誘い」をできたのではないかと思います。この伝統ある賞をいただきましたことが、私の言葉が広がっていくきかっけになるのではないかと感じておりますので、あらためてお礼申します。

選考過程と授賞理由

2014年度・第35回の「石橋湛山賞」(石橋湛山記念財団主宰、東洋経済新報社協賛)は、松元雅和氏『平和主義とは何か―政治哲学で考える戦争と平和』 (中央公論新社、2013年3月刊)ならびに白井聡氏の『永続敗戦論―戦後日本の核心』(太田出版、2013年3月刊)に決定しました。

全国の有識者から推薦いただいた多数の著作・論文の中から、厳正なる審査を行いました。最終選考委員会での選考に残った両氏の著作は大変水準が高く、異例ですが、今回は2氏への同時授賞となりました。

松元雅和氏の『平和主義とは何か』は、「平和」という重要ではあるが、抽象的概念を、政治哲学の観点から、客観的かつ的確な定義づけをし、古代・中世以来の歴史的時間軸の中で、「絶対平和主義」と「平和優先主義」を対比しながら考察した、これまでにない書であることが、高く評価されました。また、ベンサム、マンチェスター学派、ノーマンエンジェルなどを軸に考察していますが、これらは石橋湛山の”小日本主義”の思想的系譜につながり、湛山の受けた思想的影響の解明にもつながることでもあり、その意味でも「湛山賞」にふさわしいものと評価されました。

一方、大胆な主張で新たな切り口を提起し、日本の思想界に大きな知的刺激を与えたのが、白井聡氏の『永続敗戦論―戦後日本の核心』です。「敗戦」を「終戦」と置き換えることによって、「第二次世界大戦に敗北した」という事実をあいまいにしてきた支配層や知識人の「無責任」を厳しく問い、国民の「立ち上がり」を切望する若き論客の心情が、石橋湛山の精神を引き継ぐものとして評価されました。

授賞式

10月3日、東洋経済ビル9階ホールで行われました。始めに石橋省三財団代表理事から「昨年度は授賞該当作がなく、その反動という訳ではないが、 今年は読み応えのある2冊で、最終選考委員会でも激論の末、どちらも落とすわけにはいかないということで、2氏への授賞となりました。」 とのあいさつがあり、賞状・盾・副賞が白井、松元両氏に授与されました。

続いて、3人の選考委員から講評があり(増田弘氏はメッセ―ジで参加)、白井氏、松元両氏から受賞のことばが述べられました。 さらに白井氏の指導教官・加藤哲郎一橋大学名誉教授、松元氏の指導教官・萩原能久慶応義塾大学教授から祝辞があり、 続いて出版元の太田出版・取締役社長の岡聡氏、中央公論新社・取締役会長の小林敬和氏からも祝辞が述べらました。 最後に遅れて参加された選考委員の増田弘氏と財団評議員で朝日新聞OBの早野透氏から、はなむけのことばが送られ、授賞式は閉会となりました。
(講評・受賞のことばは135号に掲載)

なお、受賞記念講演は同日松元氏によって「政治哲学で考える戦争と平和・再考―平和主義と戦後日本」(今号に全文掲載)、 10月17日には白井氏による「戦後の石橋湛山と永続敗戦レジーム」との表題で(136号に掲載)が行われました。

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