石橋湛山評論集

石橋湛山評論集~大日本主義の幻想

大正10年7月30日・8月6日・13日号「社説」

以上の諸理由により吾輩は、我が国が大日本主義を棄つることは、何らかの不利を我が国に醸さない、否ただに不利を醸さないのみならずかえって大なる利益を我に与うるものなるものなるを断言する。朝鮮・台湾・樺太・満州という如き、わずかばかりの土地を棄つることにより広大なる支那の全土を我が友とし、進んで東洋全体、否、世界の弱小国全体を我が道徳的支持者とすることは、いかばかりの利益であるか計り知れない。もしその時においてなお、米国が横暴であり、あるいは英国が驕慢であって、東洋の諸民族ないしは世界の弱小国民を虐ぐるが如きことあらば、我が国は宜しくその虐げらるる者の盟主となって、英米を膺懲すべし。この場合においては、区々たる平常の軍備の如きは問題でない。戦法の極意は人の和にある。騎慢なる一、二の国が、いかに大なる軍備を擁するとも、自由解放の世界的盟主として、背後に東洋ないし全世界の心から支持を有する我が国は、断じてその戦に破るることはない。もし我が国にして、今後戦争をする機会があるとすれば、その戦争はまさにかくの如きものでなければならぬ。しかも我が国にしてこの覚悟で、一切の小欲を棄てて進むならば、おそらくはこの戦争に至らずして、騎慢なる国は亡ぶるであろう。今回の太平洋会議は実に我が国が、この大政策を試むべき、第一の舞台である。

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