石橋湛山新人賞

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第2回

受賞作

水口 由美氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了)

社会的入院に関する総合的レビューとその要因モデルの構築

慶応義塾大学湘南藤沢学会刊『KEIO SFC JOURNAL』第8巻第2号(2008年)

水口由美氏
水口 由美氏

水口 由美(みずぐちゆみ)の略歴

水口さんの経歴は異色で、1974年生まれ、96年慶応義塾看護短大を卒業後、慶応義塾大学病院看護師として9年間勤務。2005年同大学看護医療学部及び大学院に進み、09年に修士課程を修了。今年3月から再び慶応病院看護部長室に看護師として勤務しています。

選考委員講評

藤原帰一氏
石橋理事長は、選考が難航したかに言われたが、最終的な選考対象の中では、なるほどよく出来ているが今後はどうだろうかというものと、まだ欠陥はあるがこの人は今後いろいろな仕事をしていくだろうというものの検討でした。教師としてはやはり後者が印象に残り、水口論文はまさにそれで、今後さらによい論文を書かれる可能性があると、信じて疑いません。

小菅信子氏
まず内容だけをみて博士課程後期だと思ったが修士の方とは驚いた。先行研究をキチンと網羅・整理し、その中から自分の新しいものを見極め、従来にない着眼点・重要性を掘り起こすという学問の基本ができている。この調子で進められて、まず学術書1冊、新書2冊、編書3冊出せるくらいの展開を期待します。女性研究者として苦労はあると思うが、優れた論文は最終的に必ず評価されます。今後も触れる資料すべてが研究の糧になっていくが、どれだけ取捨選択するかが良い論文のコツであるという、私自身が言われた言葉をはなむけにします。

原田泰氏
選考が難航した一要因は最終対象がカント、ジョン・スチュアート・ミル、そして社会的入院に関する論文の比較だったからです。水口論文は社会的入院という非常に重要で実践的なテーマに対して、広範な切り口からアプローチして行き、最終的には自分のモデルを作って、キチッと分析されている。この点が評価されたと考えます。

増田弘氏
受賞理由の第1はテーマの現代的意義で、「社会的入院」は今日の日本に直結する重要課題であり、研究の先見性と重要性が評価される。第2は研究上の方法論で、先行研究を堅実にまとめながら自己の新たな問題点を発見し、独自性あるレベルまで高めている。第3には修士論文としては成熟度を感じさせる力量で、今後研究がどのように発展していくか楽しみです。

授賞の挨拶

気鋭のリベラリストであった石橋湛山先生の名を冠した栄誉ある賞をいただき、身の引き締まる思いです。社会的入院問題は厚生行政が何十年と解決出来ない難問で、研究に当たって、学者の卵であると同時に医療従事者である私には、自分の価値観を覆せざるをえない困難さを伴うものでした。この問題は解決しなければならない、患者さんや家族の皆さん、より広くは国民の健康をどうしたら支援できるのかという思い一心で、アカデミックの手順に則り一つ一つ取り組んだ次第です。石橋湛山先生は自分の目指すべき道、よりよい社会の実現に向けて邁進した方と伺っていますが、この賞を励みとして私も、石橋先生同様に頑張っていきたい思います。