石橋湛山新人賞

NEWCOMER

第4回

受賞作

宮古 文尋氏(上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程)

日清戦争以後の清朝対外連携策の変転過程

財団法人東洋文庫『東洋學報』第93巻第2号掲載<2011年9月刊>

宮古文尋氏
宮古 文尋氏

宮古 文尋(みやこふみひろ)氏の略歴

1979年、岩手県久慈市生まれ、2002年埼玉大学教養学部卒業後、民間企業をへて、2005年上智大学大学院文学研究科史学専攻博士課程前期課程に入学、2009年同過程修了、現在、同博士後期課程に在籍中です。

選考委員講評

増田弘氏
4回目にして初めて男性、かつ私の研究領域に近い方の受賞で喜ばしい。論文として非常に成熟しているし、日清戦争から三国干渉をへて戊戌政変(ぼじゅつせいへん)に至る中国(清朝)指導層内での変法派(へんぽうは)と守旧派間における、露・独・日・英等との対外政策をめぐる対立を詳細に解明している。外交史分野での不透明な部分に光を当てたもので、中国側の一次史料を縦横に駆使して、客観的に分析している。今後さらに、日清戦争以前と以後の中国外交思想上の連続性なり非連続性なりを追究されていけば、より立体的な研究になると思います。

藤原帰一氏
何よりも書かれた日本語の意味が分かりやすいこと。それはまず第一内容があり、その依拠したデータがあり、史料を丁寧に読み込んでいることです。それによって、従来の連露派と連英日派の対抗という単純な解釈を覆している。こうした時代プロセスの切り口を出発点として、では筆者は、この時代をどう捉えるかという、大きな論文に挑んでほしいと考えます。

原田泰氏
歴史関係では素人だが、非常に面白く読ませて貰った。日清戦争以降、露・英・日等の力を借りながら中国の独立を守りたい、しかし各々の思惑によって裏切られていく。そのドラマのような過程が史料の裏付けをもって、生き生きと描かれている。映画「ラストエンペラー」の前史として、こういう時代があったのだ。そこでは、いろいろな国の思惑があり、それに頼ろうとする人たち、それに頼っていいのかと疑う人たちの、心までが、手に取るように描かれていて、すばらしい。本当に将来有望な研究者が現れたとことに対して、「石橋湛山新人賞」を差し上げることを嬉しく思います。

小菅信子氏
歴史学・東洋史として緻密な議論を展開し、文章も大変よい。ともすれば、歴史学の中では東洋史への関心が必ずしも高くない中で、このような熱意のある若い研究者が出てくることは、大変歓迎したいし、今後のご活躍を願っています。

授賞の挨拶

受賞を大変光栄に思います。特に中国とゆかりの深い石橋湛山先生の名を冠した賞であること、歴史学を専門とされる先生方の選考によって、中国研究で受賞できたことを、特に嬉しく思います。これもひとえに、熱心に指導いただいた坂野良吉先生と、日々の生活を支えてくれる両親のおかげてす。ありがとうございます。
僕は岩手の沿岸部・久慈市の出身で、昨年の震災・津波で、地元は、もうどこに何があったかも思い出せないほどの、甚大な被害を受けました。その時に、僕に何ができるのかを考えさせられましたが、今の僕にできることは結局、目の前の課題に一所懸命取り組むことしかないと考えました。その一つの成果として発表した論文が、このように評価されたことは、感慨深いものがあります。今後とも研究を続けられるか、非常に厳しい状況にあるのは自覚しているのですが、この賞の名に恥じないようにいっそうの努力したいと考えます。今回はありがとうございました。

選考過程と論文要旨は、「自由思想」125号(2012年4月発行)に掲載してます。