石橋湛山賞

prize

第24回

受賞作

東京大学大学院経済学研究科教授 神野 直彦著

地域再生の経済学 豊かさを問い直す〈 中公新書 2002年9月刊 〉

受賞者略歴

神野 直彦氏

1946年生まれる。
東京大学経済学部卒業後自動車メーカー勤務の後、1980年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。
大阪市立大学助教授、東京大学経済学部助教授を経て、現在東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。
2003年10月からは経済学研究科長・経済学部長に就任。

著書等
専攻は財政学で、著書・論文は多数。
近著では、受賞作の他に
『昭和財政史~昭和27~48年度、第3巻』(1994年、東洋経済新報社)
『システム改革の政治経済学』(1998年、岩波書店・エコノミスト賞受賞)
『地方に税源を』(共編著、1998年、東洋経済新報社)
『二兎を得る経済学~景気回復と財政再建』(東洋経済新報社)(2001年、講談社+α新書)
『「希望の島」への改革~分権型社会をつくる』(2001年、日本放送出版協会)
『痛みだけの改革、幸せになる改革』(2002年、PHP研究所)などがあります。
地方財政論から、経済学批判、構造改革批判まで、精力的な執筆活動を続けています。

受賞の挨拶

ずっと、ドイツの財政学を中心に学んできて、自分では変わってないつもりだが、かつてマルクス経済学全盛の時には“右翼”に、 今では“左の方”に位置づけられている。また米国からは、“コンサーバティブ・ユートピアン”と称されている。というのも、長くヨーロッパを 観察していると、現在の日本はどうも米国の押しつけにあって苦吟している社会になりつつある。それが本当にいいのかどうか。欧州のように自分 たちの良いところをもう一度見直して、作り直そうということもあるのではないか。アメリカモデルだけではなく、ヨーロッパモデル、その理想も ある。つまり日本も状況は変わった、改革しなければならないのだが、日本のよいところを見直してそれをもう一度活かすしかないのではないかと思う。 日本にはその地域の風土にあった教えが沢山ある。
地方分権の問題で調査すると、スウェーデンはドイツの財政学に忠実に改革して成功している。スウェーデンの人々が言っている “個人主義”とは、人間というものは自立すれば自立するほど他者と連帯する、協力し合うのだという原理にある。これは日本人が考えてる個人主義と はちょっと違う。
今回の受賞を恩師・宇沢弘文先生が大変喜んでくれて、その手紙には、石橋湛山の<分権の思想>を受け継ぐようにと結んであった。 私なりにそうした事ができればと思っています。

受賞記念講演「地域再生の経済学」

 東京大学の神野でございます。本日はこのような席でお話をさせていただく事に大変感謝をいたしております。
ただいまもご紹介がありましたように、このたび、石橋湛山賞をいただきましたが、 私はもともと第2次世界大戦前の財政の歴史を研究しておりましたので、その政策過程の研究で、 いつも雑誌『東洋経済新報』の最初の所を読んでおりました。そうした関係もあって、石橋湛山氏の文章、 それから高橋亀吉先生の文章はよく読んでおりましたから、感無量でございます。
この『地域再生の経済学』という本を書いた直接のきっかけは、日本の地域経済が本当に砂のように打ち砕かれている。 皆様もご案内のとおりに、地方の町に行きますと、ほとんどがシャッターが閉まっているということが、見受けられるわけです。 逆にヨーロッパの方を観察してみると、都市が新たに再生し始めている。これはどういうことが原因、要因になって、 こうした好対照が起きているのだろうか、とういうのがきっかけです。(以下省略)
1.21世紀へのレールム・ノヴァルム
2.歴史の峠に立っても戦略産業が見えない
3.次の時代の体制をつくれなかった日本
4.アメリカン・スタンダードの跋扈
5.岩盤から砂のような地方経済に
6.ヨーロッパの都市再生に学ぶ
7.生活機能は生産機能を引きつける磁場
8.地域社会が責任を持つワークフェア
9.キメ手は人材、教育と再教育
10.自立した財政、地方ごとの生活と文化を
・・・ですから、、私たちはもう一度、自分たちの持っていたものを復活させる。 時代が変わり、状況が変わったのですから、新たに変えなければならない。
しかし、その時に重要なのは新しい人間の知恵を注ぎ込むことです。 そのような地域社会を再生させないと、いまのように砂のように打ち砕かれた地域経済では、 変動激しい世界経済に対応できないのではないかというのが、私の拙い話です。
ご清聴ありがとうございました。

「自由思想」第94号に全文を掲載しています